null

黄金コラム 2016.7.21

第8回
「黄金カレンダー」編集長も驚いた! たれ焼肉の聖地、大阪・鶴橋の名店5選

たれ焼肉といえば大阪・鶴橋。ということで、遠路はるばる大阪までやってきた「黄金カレンダー」編集部。今回は、大槻編集長自らが鶴橋を訪れた。電車を降りた瞬間、ホームに漂う焼肉の香りに早くも期待が高まる。興奮を抑えつつ、たれ焼肉のおいしさを調査するため、鶴橋で人気の老舗5軒へ焼肉のこだわりと自慢のたれについて聞いてきた!

焼肉ホルモン 空 鶴橋総本店

味、雰囲気、価格の3拍子がそろった鶴橋の超人気店


null

焼いていると身がくるんと丸くなるのが新鮮さの証。ハチノスのやわらかさは感動モノ!

カウンター8席のみの小さな店から始まった創業40年の『空』は、今では5店舗・総席数200を超える鶴橋を代表する人気店だ。店と店を挟んだ小路をお肉の乗った皿を持って行き交うスタッフ、ロースターの煙がもくもくと立ち込める店内。その風景は、まさに豪快で気取りのない大阪・大衆焼肉屋そのもの。その光景を見て、大槻編集長もカルチャーショックを受けている様子。

「焼肉屋がここまで密集しているエリアは、東京にもほとんどないのでは!? とにかく、そこかしこから焼肉のいい香りがしてきますね」(大槻編集長)

そんな昔ながらの雰囲気にもひかれるが、一番の魅力はなんといっても、お肉の鮮度と部位のメニューの豊富さにある。『空』といえば、“目方も値段も他店の半分”で知られるが、単に安さをウリにした店ではない。揉んで炊いて洗ってと丁寧に下処理された牛のホルモンは、独特のプルンとした食感と驚愕の柔らかさ。店の回転が速いのも、新鮮さを保てる理由のひとつだ。

二代目女将の金山真紀(かなやま まき)さんいわく、「いろんなお肉を食べてもらいたい」から種類は豊富に。特に、ホルモンは30種近くそろい、ハギシ(アゴ肉)やプップギ(肺)など東京では聞きなれない部位も味わえる。「値段を気にせず満足してほしい」と、ひと皿350円~800円と低価格に設定。「たくさん食べられるように」と、先代から引き継いだ自家製のつけだれは、まろやかあっさり仕立てで最後まで飽きずにお肉を楽しめる。

「意外なほどあっさりした味に驚きました。店主の人柄も最高で、どんどんビールが進みます。一人前の量もちょうどいいし、ひとりで来る方が多いのも納得。鶴橋の人にとっては、焼肉がソウルフードなんだと身にしみて分かりました」(大槻編集長)

狭いカウンターで小さなロースターと対峙するのもオツなもの。鶴橋の味と雰囲気をお腹いっぱい味わいたいなら、『空』に行けば間違いない。

null

女将が門外不出のレシピで作る揉みだれとつけだれは醤油ベース。揉みだれは夏は味を濃く、辛みを足すなど微調整を加える。ホルモンは味噌ベースでいただく。左から、「ハチノス(¥450)」、「ハラミ(¥650)」、「ホソ(小腸)(¥450)

null

ご両親の跡を継いで『空』の看板と味を守る、二代目女将の金山さん。明るい性格とチャーミングな笑顔に元気をもらえる、鶴橋の名物女将のひとり

null

手前のカウンターのみの店舗が1号店で、隣と向かいに店が並ぶ。週末ともなると軒先にできる長蛇の列は、もはや鶴橋の名物

  • 大阪府大阪市天王寺区下味原町1-10
  • 06-6773-1300
  • 17:00~23:00(土日祝16:00~23:00)
  • 火休
  • 200席
  • ※価格はすべて税抜となります

炭火焼肉大倉

「いいお肉」にとことんこだわるガード下の名店

null

品のいい甘さの脂は、ジューシーなのに重たくなく絶品の味わい。この品質にして破格。「三角カルビ(¥1,600)」

焼肉の香りが立ち込める駅前のガード下で看板を掲げる『炭火焼肉 大倉』。この店はとにかく、お肉へのこだわりが半端ではない。扱うお肉は国産の特選A5・7等牛のみで、産地や銘柄を指定せず、その日一番いい牛を一頭買い。毎朝、二代目店主が仕入れに足を運び、肉質を見極め、「納得のいく牛が仕入れられない日は店を閉める」というほどである。冷凍肉は一切使わず、その日さばいた生肉だけを提供するのも店のポリシー。ロースやカルビは余分な脂を取り除き、お肉と脂の間に入っている膜も外すため、よそでは削らない身の部分まで削る。取れる量が必然的に少なくなるから、人気部位は数量限定でオーダーは1回のみ。先代の値付けは変えずに採算度外視の価格設定。そこまで徹底する理由はすべて、儲けよりもおいしさを重視しているから。同じクオリティのお肉を東京で食べたら、おそらく倍以上の金額になるだろう。「いいお肉ばっかり頼むお客さんよりビールをたくさん飲むお客さんのほうがありがたい(笑)。ハラミおかわりちょうだいなんて言われたら、『ワガママ言うたらアカン』って手をパチン! ですわ」と名物女将の大倉久子(おおくら ひさこ)さんは笑う。

完全にお肉の“身”だけを味わえる焼肉は、雑味がなくスッとうま味が口に広がり、炭とたれの香りが鼻に抜ける。飲み込んだあとも口に残る甘い余韻。“口福”とはまさにこのこと。お肉に絶対の自信を持っているから、客がお肉を最適な焼き加減で食べられるよう女将が常にフロアで目を光らせる。女将にテキパキと世話を焼かれながら食べる焼肉も、『大倉』の魅力であり醍醐味といえるだろう。

null

「ハラミ(サガリ)(¥1,600)」。ハラミの中でも特上や上ハラミとして扱われるサガリを使用。繊細だが濃いうま味は感動モノ。同業者も勉強しに訪れるほど一目置かれる味わい

null

「ブレンドを教えても同じ味は作れない」と女将さん。作り手の味覚や手の温度など、さまざまな条件がそろって秘伝のたれが完成する。つけだれは大量のレモンを使った爽やかな味わい。揉みだれは昆布だしと醤油をベースに調合する

null

A5黒毛リブロースを炙り、半熟卵とユッケだれに絡めていただく「炙り月見ロース」(時価)を、ごはんに乗っけた極上のTKG! 店では「例のやつ」(女将談)で通っている

null

『大倉』の味と雰囲気を守り続ける女将の大倉さん。サバサバとしたきっぷのいい接客で、女将さんに怒られ…もとい、会いたくて訪れる客も数知れず

null

入口横のポスターには、先代の顔とともに「自分で食べれんものをお客さんに出すことはない!」という、職人気質だった先代の遺言が。近々、外観をリニューアルするとのこと

  • 大阪府大阪市天王寺区東上町1-63
  • 06-6771-1178
  • 16:00~21:00(材料がなくなり次第閉店)
  • 月休
  • 70席
  • ※価格はすべて税抜となります

鶴一

鶴橋の焼肉文化を生んだ、つけだれ発祥の店


null

お肉のうま味を堪能できる、「人気の骨付きカルビ(¥1,750)」と「上ハラミ(¥1,200)」。焼く前に揉みだれをたっぷり絡めていただこう

つけだれ発祥の店として知られる、昭和23年創業の『鶴一』。鶴橋の焼肉を語るうえで外せない名店のひとつだ。先代の母親が焼き立てのお肉でやけどしないように、お肉の熱を冷ますため、たれに浸して食べたことが「つけだれ」の始まりだったとか。これが「うまい!」と評判を呼び、次第にほかの焼肉店にも広まり、揉みだれとつけだれで食べる焼肉が鶴橋スタイルとして根づいたという。

その元祖つけだれは、いりこだしがベースの和風味でそのまま飲めるほどあっさり。たれの割合はオーナーのみしか知らず、長年勤める従業員も詳しいレシピは教えてもらえないという。焼いたお肉をつけだれで洗うようにして食べると、風味がまろやかになってお肉の甘さが際立ち、思わずごはんが欲しくなる。子どもも大人も大好きな味わいだ。店内はファミリーやカップル、女子会らしきグループなど幅広い年齢層でにぎわい、老若男女に愛される味であることを証明している。

主役のお肉は国産牛にこだわり、サシやスジの入り方を入念にチェックする。ハラミやカルビなどの味わいの濃いお肉は、たれに絡めたときのバランスも考えながら厚切りかつ大きめにカット。丁寧に下処理した歯ごたえのあるホルモンも評判だ。肉好きならば、鶴橋の焼肉文化を生んだ元祖の味をぜひ一度味わってほしい。

null

『鶴一』は鶴橋で牛のホルモン焼きを始めた元祖でもある。人気の部位をひと通り味わえる「ホルモンミックス(¥2,200)」は、テッチャン、キモ、センマイ、ハチノス、ハート(心)の5種

null

「お子さまからご高齢の方まで楽しめる、元祖つけだれの焼肉をぜひ食べにきてください」と、店長の大久保考規(おおくぼ たかのり)さん

null

3階建て総席数158を誇る、無煙ロースター設置の大型店。週末は行列もできるが、キャパが広く回転が速いためそんなに待たずに入店できる

  • 大阪府大阪市天王寺区下味原町3-3
  • 06-6771-0806
  • 11:00~15:00/16:00~LO21:00(最終入店20:40)
  • 158席
  • 不定休
  • ※価格はすべて税抜となります

大吉

秘伝の「生だれ」にリピーター続出の老舗焼肉店


null

メニュー名に「上」がつくお肉は生でも食べられる質のよさ。「上ロース(¥1,600)」、「上バラ(カルビ)(¥1,400)」

「たれはお肉の味をごまかすためのものじゃなく、お肉のうま味をストレートに伝えるためのものなんです」と、店主の大村英士(おおむら えいじ)さん。いいお肉であればおいしいのは当たり前。そのおいしさをさらに引き出したわざわざ出かけなければ食べられない味に昇華させるのが腕の見せどころだと語る。

その『大吉』のおいしさの決め手が「生だれ」だ。熱処理はせず、防腐剤も使わないたれは毎日使う分だけ作り、作り置きをしない。フレッシュな状態を保つために傷みやすい果物類は使わずに、2種類の醤油をベースに作られている。ほどよい酸味を感じるのは、酢を2種類合わせているから。揉みだれは、赤身用の醤油ベースと、ホルモン用の味噌ベースの2つを使い分け。味噌だれは、2種類の味噌と唐辛子をブレンド。あっさりしているがコクがあり、サシの多いお肉でもすいすい食べられてしまう。そのバランスが絶妙で、一度食べるとハマる人が続出するという。

扱うお肉は、産地にこだわらず国産のいいお肉を仕入れる。牛肉の仕入れ値は高騰しているが、「昔からのお客さんがいつ来ても同じ味を楽しめるように、価格は昔のまま。儲けは出ないけど、だからといって品質を下げることはしたくない」と時代が変わってもスタイルは曲げない。名物の参鶏湯と一緒に、生だれでいただく大阪人情の焼肉を堪能あれ!

null

左上が「生だれ」。他店より色が薄いのが特徴で、醤油と酢、生姜、ニンニクなどをブレンド。右上は赤身用の揉みだれ、下はホルモン用の揉みだれ。

null

焼いたお肉をごはんに乗せて、つけだれを回しいれる即席肉丼もオススメ。お肉の脂でさらにうま味が増したつけだれと白米の相性は唯一無二!

null

創業当時からメニューに並ぶ「参鶏湯(¥1,800)」も看板料理のひとつ。もち米、高麗人参、ナツメなどを詰めた若鶏をコトコト煮込んだスタミナ料理。食後は中華麺を入れて〆るのが定番!

null

創業42年目を迎える『大吉』の二代目店主・大村さん。人懐こい笑顔と人情味溢れる接客で、一見客でも温かく迎えてくれる

null
  • 大阪府大阪市天王寺区下味原5-18
  • 06-6717-7777
  • 11:30~LO22:30
  • 木休
  • 84席
  • ※価格はすべて税抜となります

アジヨシ総本店

厚切り肉が肉好きの胃袋をつかむ! 駅前の老舗店


null

「シン(¥1,480)」は、肩ロースの顔ともいえる部位。味と柔らかさは肩ロースの中でもトップクラス! 「ハネシタ(¥1,450)」は、サシよし、味よし、外れなしのロースの三冠王!

鶴橋駅前にある『アジヨシ総本店』は、創業50余年の老舗焼肉店。理想的な熟れ具合になったお肉だけを見極め、1つひとつ丁寧にカットして提供するスタイルを守り続けている。安い店が多い鶴橋のなかではやや価格設定は高めに思えるが、皿に盛られた厚切り肉とその量を見れば納得。肉質も、並みのロースがよその上ロースのクオリティだ。高いといっても、特選メニューの「ハネシタ(¥1,450)」、「ミスジ(¥1,480)」など、東京の有名店に比べたらそれでもリーズナブルに感じる。サーロインの焼きしゃぶや、バラの中の部位・ブリスケをポン酢でいただくバラおろしなど、希少部位を使ったメニューも展開。あれこれシェアして楽しめ、結果的にコスパがよいのが同店の魅力だ。

お肉へのこだわりは昔ながらを貫くが、たれは50余年の歴史のなかで進化を続けている。つけだれと揉みだれはベースが異なり、つけだれは昆布だしに酢やレモン、すだちなどを加えた酸味のある味わいが特徴。揉みだれは、鶏ガラベースで濃い目に作り、さらっとしたつけだれと合わせていい塩梅になるように計算している。先代の出身地である韓国・大邱(テグ)の郷土料理「どじょう汁」や、手打ちの冷麺など、サイドメニューも絶品ぞろいなので食べ逃しなく!

null

溶き卵に絡めていただく「バラすき(¥880)」は、やわらかな肉質と甘味をすき焼風に味わえる逸品

null

とろける肉質が特徴。ごはんと一緒に食べて欲しい。訪れた際には、ぜひ注文したい一品

null

「申し分ない厚みとサシの良質和牛を、満足のボリュームで。半人前のメニューもあるので、いろんな部位をたくさん楽しんでくださいね」と店長の松葉英樹(まつば ひでき)さん

null
  • 大阪府大阪市天王寺区下味原町2-2
  • 06-6772-7760
  • 11:00~LO23:15(日・祝日11:00~LO22:00)
  • 無休
  • 155席
  • ※価格はすべて税抜となります

■「黄金カレンダー」編集長 大槻篤コメント

「今回、2日で5軒という強行スケジュールでしたが、本当に来てよかった。東京ではラグジュアリーな焼肉店が増えていて、デートや会食にも使える店も多く、逆にこういった昔ながらの店を見つけるのは難しい。どのお店もたれにこだわりがあって、その味も考え方もまったく異なる。そして、お肉がたれによって数倍にもおいしくなることが分かった。今後の家焼肉のヒントにもなるし、焼肉好きであれば一度は鶴橋を体験してもらいたい!」

※本記事の内容は2016年6月時点のものになります。

Photos/Yuuji Kanno, Text/Ayano Sakai@verb